最高裁判所第一小法廷 昭和49年(オ)763号 判決 1976年10月21日
主文
理由
上告代理人平良清仁の上告理由について
原審は、(一)玉城金雄は、昭和四一年二月一六日山城マツ子に対して負担する借受金債務を担保するため、本件(一)、(二)の建物につき抵当権を設定するとともに、右債務不履行の場合は、その元利金及び山城が引き受けるべき玉城の琉球開発金融公社ほか一名に対する債務合計額につき右建物をもつて代物弁済する旨の停止条件付代物弁済契約を締結し、山城は、その旨の抵当権設定登記及び停止条件付所有権移転仮登記を経由した、(二)他方、玉城は、山城が仮登記を経由した後である昭和四一年八月二八日に、被上告人に対して負担する借受金債務を担保するため、被上告人との間で本件(一)、(二)の建物につき抵当権設定契約及び停止条件付代物弁済契約を締結し、同月二九日その旨の抵当権設定登記及び停止条件付所有権移転仮登記を経由した、(三)山城は、玉城が約定の弁済期に債務の弁済をしなかつたため、清算金を支払わないまま、昭和四一年一二月一日代物弁済を原因として本件(一)、(二)建物につき仮登記に基づく本登記を経由したのであるが、その登記手続において、登記上の利害関係人である被上告人の承諾書又はこれに対抗しうべき裁判の謄本が添付されていなかつたにもかかわらず、登記官吏の過誤によつて本登記がされた。そして、上告人ら被相続人黒島信彦は、昭和四二年四月一〇日山城から本件(一)建物を代金九、〇〇〇ドルで買い受けて同月一二日所有権移転登記を経由し、また、同年五月二九日(二)建物を代金三、〇〇〇ドルで買い受けて翌三〇日所有権移転登記を経由した、との諸事実を認定したうえ、黒島信彦は、本件(一)、(二)の建物の買受けによつて被上告人に対する抹消登記請求権を取得したものということはできず、山城が被上告人に対して有する抹消登記請求権を代位行使しうるにすぎない旨判断しているのである。
しかしながら、原審の右認定事実によれば、玉城と山城間の本件停止条件付代物弁済契約はいわゆる仮登記担保契約であることが明らかであるところ、仮登記担保契約において、債権者が、被担保債権の弁済期の到来により目的不動産の所有権を取得したとして、仮登記の本登記をしたうえ、その所有権を善意の第三者に譲渡し、所有権移転登記を経由した場合には、債務者に対する清算手続が未了であつても、右第三者は目的不動産につき完全な所有権を取得するものと解するのが相当であり(最高裁昭和四一年(オ)第六〇五号同四六年五月二〇日第一小法廷判決・裁判集民事一〇三号一頁参照)、このように第三者が目的不動産について完全な所有権を取得した場合に、右第三者が、その所有権に基づき仮登記担保権者に劣後する後順位担保権者に対してその経由した登記の抹消を請求したときは、後順位担保権者は、自己独自の抗弁として、債務者に対する清算金の支払との引換給付の主張をする余地はないものといわなければならない。そうすると、叙上の事実関係のもとにおいて、なんら首肯するに足る理由を示すことなく、上告人らの本件(一)、(二)の建物の所有権に基づく被上告人に対する抹消登記請求権をたやすく排斥した原審の判断には、審理不尽、理由不備の違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由がある。そして、本件は、右の点についてさらに審理を尽くす必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。
(裁判長裁判官 岸 盛一 裁判官 下田武三 裁判官 岸上康夫 裁判官 団藤重光)